現代の帝国

サラリーマン資本主義の誕生〜庶民が経済を動かす時代〜

サラリーマン資本主義の誕生〜庶民が経済を動かす時代〜

財閥が解体され、銀行が経済を支えたあと、日本を動かしたのは“庶民”だった。かつては資本家のものだった経済が、働く人々の手に渡る——。終身雇用、ボーナス、住宅ローン、株式購入。これらすべてが「サラリーマン資本主義」という新しい時代の始まりだった。

想定読者:ビジネスパーソン・学生/難易度:★★★☆☆/読了時間:約10分

目次

  • ① 高度経済成長と企業社会の誕生
  • ② 「会社は家族」という思想
  • ③ 株主から従業員へ:所有の転換
  • ④ 経済ドラマ:庶民が経済を動かした瞬間
  • ⑤ 現代に生きる教訓(3つ)

① 高度経済成長と企業社会の誕生

1955年、「もはや戦後ではない」。経済白書のその一文が、日本の夜明けを告げた。
経済復興を終えた日本は、ついに“成長”というステージへ踏み出した。

この時代、経済の主役はすでに財閥でも政府でもなかった。
毎朝電車に乗り、ネクタイを締めて会社へ向かう——無数のサラリーマンたち。
彼らこそが「戦後経済の血液」となっていった。

高度経済成長期(1955〜1973)は、平均成長率が10%を超える異常な繁栄期だった。
テレビ・冷蔵庫・洗濯機の“三種の神器”が家庭に広まり、やがて車とマイホームが夢の象徴になる。
だが、その繁栄の裏には「企業社会」という見えない仕組みが存在した。
それは、“個人より組織を信じる”という価値観だった。

② 「会社は家族」という思想

サラリーマン文化を語るうえで欠かせないのが、「終身雇用」と「年功序列」だ。
会社に入れば一生面倒を見てもらい、年齢を重ねれば自動的に昇給する。
経済合理性というより、“人間の信頼”を基盤にした制度だった。

この仕組みが生まれた背景には、戦後の社会不安がある。
空襲で家を失い、家族を失った人々にとって、会社は「第二の家族」になった。
社宅、社員旅行、クラブ活動——企業は単なる雇用主ではなく、生活共同体のような存在だった。

企業は従業員を守り、従業員は命をかけて働く。
その忠誠心が日本企業の強さを支えた。
工場の現場では、若手社員が夜遅くまで機械を磨き、上司が弁当を差し入れる光景が日常だった。
誰もが「会社のために働くことは、社会のために働くこと」と信じて疑わなかった。

経済学者ピーター・ドラッカーは当時の日本企業をこう評した。
「日本の経営は、資本主義でありながら、家族のような温かさを持っている」
これが、世界でも稀な“サラリーマン資本主義”の始まりだった。

③ 株主から従業員へ:所有の転換

戦前の資本主義では、企業の主役は「株主」だった。
だが戦後、株式の保有構造が大きく変わる。
財閥の持株が没収され、銀行や企業同士の「持ち合い」が進んだ。
さらに、企業は従業員に自社株を持たせる「従業員持株制度」を導入。
会社のオーナーが、徐々に“働く人々”へと移っていく。

これにより、サラリーマンは「労働者」であると同時に「投資家」となった。
ボーナスで株を買い、退職金で家を建て、住宅ローンで消費を支える。
“働く人”が“経済の歯車”から“経済の原動力”へ変わったのだ。

さらに、銀行がメインバンクとして企業を支える構造も、この流れを後押しした。
銀行はサラリーマンの給与振込・住宅ローン・学資保険などを通じて、家庭の経済に深く入り込む。
つまり、企業だけでなく家庭もまた、経済システムの中に組み込まれていった。

結果として、「国民総資本主義」が成立した。
富裕層だけでなく、一般家庭が経済を回す時代。
これはアメリカでもヨーロッパでも見られなかった、日本独自の進化だった。

④ 経済ドラマ:庶民が経済を動かした瞬間

1960年代、電機メーカー・松下電器(現パナソニック)はこうスローガンを掲げた。
「社員こそ財産」。
創業者・松下幸之助は、利益よりも社員の生活を優先する経営を貫いた。
彼の信念はシンプルだった——「社員が幸せでなければ、良い商品は生まれない」。

同じ頃、自動車業界ではトヨタが「カイゼン」を掲げ、工場の現場に“考える力”を与えた。
下請けの社員までが改善提案を出し、それが会社全体の効率化につながる。
経営者ではなく、現場の知恵が日本企業を強くした。

一方で、家庭の中でも「経済の民主化」が進んだ。
主婦が家計を握り、ボーナスの使い道を決める。
新聞には「住宅ローン相談」「ボーナス貯金術」といった特集が並んだ。
“庶民”が経済を語る時代がやってきたのだ。

昭和のサラリーマンたちは、決して裕福ではなかった。
だが、毎月の給料で生活を支え、子どもの教育を夢見た。
彼らの努力が消費を生み、消費が企業を育て、企業が再び雇用を生む——。
日本経済の黄金循環は、机に向かう一人ひとりの働きから生まれた。

そして1970年、大阪万博。
「人類の進歩と調和」というテーマのもと、一般家庭から集められた電気代・税金・預金が、日本最大の展示会を支えた。
巨大な太陽の塔を見上げながら、誰もが思った——
「これは、俺たちの作った日本だ」と。

⑤ 現代に生きる教訓(3つ)

  1. 1. 経済は“現場の努力”で動く。
    大企業も国家も、最初の一歩は個人の労働から始まる。サラリーマンの努力が経済を動かす。これは今も変わらない。
  2. 2. 「家族的経営」は信頼の原点だった。
    形式的な制度ではなく、互いを信じる文化が生産性を支えた。現代のリモートワーク時代にも、信頼は最大の通貨だ。
  3. 3. 資本主義は庶民が育てた。
    経済を動かしたのは投資家ではなく、毎日働き、消費した普通の人々。サラリーマンこそ真の“資本家”だった。

よくある質問

Q1:サラリーマン資本主義とは何ですか?

A:戦後日本で成立した、企業と従業員が一体となって経済を動かす仕組みのことです。株主中心ではなく、働く人々を軸にした独自の資本主義です。

Q2:今もサラリーマン資本主義は続いていますか?

A:形は変わりましたが、理念は残っています。終身雇用やボーナスは減っても、「人が企業を支える」という精神は多くの企業文化に息づいています。

次に読むな

-現代の帝国
-, , , , , , ,